記事一覧

ジラール・ペルゴの素晴らしいヴィンテージ懐中時計2本

19世紀は、古典的な精密計時の進化において、ある種の黄金時代だった。誕生し、やがて栄え、そして少しずつ衰退していった。

先日、この企画のパート1で、非常に珍しい球形ヒゲゼンマイを持つヴィンテージのジラール・ペルゴ懐中時計を取り上げた。その時にも述べたように、19世紀は精密計時の進化においてある種の黄金時代であり、いわゆる古典的な精密時計技術が誕生し、最盛期を迎え、そして徐々に衰退していった時代でもあった。

球形ヒゲゼンマイ、ジラール・ペルゴのポケットクロノメーター、1860年製。

この発言を鼻で笑い飛ばされないために、“古典的な”精密時計の意味を説明しなければならない。1800年から1900年にかけての時代が非常に興味深いのは、精密計時に対する多くの基本的な改良が行われたにもかかわらず、時計職人が使用する材料に基本的な変化がなかったことにある。実際、彼らはルネサンス初期に最初の携帯時計やクロックがつくられて以来、口コミ第1位のスーパーコピー 代引き専門店Hicopy.jp本質的には同じ材料、つまりスティール、真鍮、そして(少しのちに)軸受用の宝石を使い続けてきたのである。

デテント脱進機と温度補正テンプを備えた高精度な19世紀末の懐中時計は、調整と手入れ次第でクォーツに近い精度で時を刻むことができるが、基本的には300年前に使われていた材料と何ら変わりはない。20世紀初頭になると高い計時精度は時計職人だけでなく冶金学者にとっても課題となり、今日の機械式時計製造の進歩は、時計製造の技術や素材(そしてシリコンエッチング、LIGA、スパークエロージョンなどのハイテク製造技術も、華美な素材と一緒に使われる)よりも、はるかに多くのものが関わっているのだ。

パート1では、球形ヒゲゼンマイを持つ1860年製のポケットクロノメーターを紹介した。パート2では、ジラール・ペルゴのもうひとつの懐中時計を紹介しよう。今回は少しあとの時代のもので、ジラール・ペルゴの歴史家であり博物館のキュレーターであるウィリー・シュヴァイツァー(Willy Schweitzer)氏によると、これは1880年ごろに完成したものだという。

このジラール・ペルゴのクロノメーターは、19世紀後半に製造された高級な精密時計である。

エナメルダイヤルと針は装飾的だが、非常に精巧にできている。

この時計の文字盤とケースは、その時代の優れた懐中時計に期待されるものを踏襲している。実際、文字盤と針は1880年代や90年代の精密時計にしては少し装飾的である。それでも、ケースと文字盤に見られる品質は、何か特別なものがこの内部にあることを示唆している。そのことに間違いはない。

ムーブメントはひとつのゴールドブリッジとハーフブリッジの下にあり、同様の構造は現在の多くのGP(ジラール・ペルゴ)ウォッチでも見られる。

これはシンプルな時計で時刻表示の以外の複雑機構はない。しかし持ち運び可能な高精度の時計を作ることが非常に重要な課題であったことは明白だ。この種の時計は当時非常に高価であり、それを購入できるほど裕福でありながら精度に強く関心を持ち、最高級の精密製造と手作業による調整に多額の資金を支払う人物が所有していた。このような時計の調整は非常に手間がかかり、数日どころか数週間を要するものであった。

仕上げは非常に精巧で、ムーブメント全体にわたって丹念に(そして徹底的に)施されている。

パート1のクロノメーターとは異なり、この時計にはフュゼがない。その代わりフュゼチェーンがあるものよりも大きなテンプとゼンマイ香箱が使用可能になった。また1860年製の時計とは異なり、この時計は鍵ではなくリューズで巻き上げと時刻合わせを行う。どちらの時計もバイメタル切りテンプを備えており、温度変化に応じてテンプの直径が変化することでスティール製ヒゲゼンマイの弾性の温度変化を補正している。

この時計に施された装飾の手間を見ていると、これが時刻表示のみのムーブメントであることを忘れてしまいそうになる。

防塵性能が十分でないためケース内部にゴミが溜まっているが(20世紀に現代的なガスケットとスクリューバックケースが段階的に開発されるまで、これはすべての時計に共通する問題であった)、その年代を考慮するとムーブメントは驚くほど良好な状態で保存されている。12時位置にあるリューズのすぐ下には、巻き上げ時にリューズとともに回転する丸穴車がある。その隣にはゼンマイ香箱のラチェットホイールがあり、1時位置に配置されたコハゼによって急速に(そして破壊的に)解けてしまうのを防いでいる。コハゼの歯は長く美しい形状のコハゼバネによって固定されている。ヴィンテージ懐中時計のコハゼバネはしばしば時計職人の美的感覚を引き出すようだが、この時計ではムーブメント全体について同じことが言えるだろう。

当然ながら、このムーブメントのもっとも目を引くのは、2番車(中央)と3番車(10時位置)用のゴールドブリッジとその巨大なルビージュエル、そして4番車とガンギ車用のハーフゴールドブリッジ(実際にはコック)である。材料の柔らかさや、わずかな傷でも非常に目立つようにポリッシュ仕上げされていると考えると、このふたつのゴールドブリッジが年代を考慮しても驚くほど良好な状態にあるのは特筆に値する。この時計のメンテナンスは、時計職人が介入の痕跡を残さないように細心の注意を払う必要があっただろう。もちろんスリ傷やネジの溝に傷をつけないことは適切な訓練を受けた時計職人にとって最低限の基準であり、当然のことではある。

3番車とガンギ車は、複雑な二股のハーフブリッジ(またはコック)の下に配置されている。

SSの仕上げは特に優れており、全体にわたって清潔で鋭い面取りとブラックポリッシュが施されている。

もうひとつの比較的珍しい特徴は、デテント脱進機である。18世紀中頃に英国のトーマス・マッジ(Thomas Mudge)によって開発されたとされるレバー脱進機は、おそらく今あなたがつけている時計にも使われている。通常は問題なく動作するが、ガンギ車から動力を受け取る表面のオイルが固着し始めると、安定した速度からずれ始めることがある。現代の合成潤滑剤が登場する前は大きな問題であったが(1年に1度の清掃でも厳しかった)、デテント脱進機にはオイルを必要としないという利点がある。

デテント脱進機には、ガンギ車からテンプにエネルギーを伝えるレバーがなく、代わりにデテント(その名の由来でもある)がガンギ車をロックし、テンプを揺らすことでこれを解除する仕組みである。デテントが動くとガンギ車のロックが解除され、ガンギ車が1歯前進し、テンプのインパルスジュエルに当たってテンプを押し、スイングを維持する。デテント脱進機(クロノメーター脱進機とも呼ばれた)は衝撃を受けると偶発的にロックが解除されやすく、レバー脱進機ほどの安全性はないため、携帯用時計には圧倒的にレバー脱進機が好まれた。しかしデテント脱進機は、以下の条件を満たす場合には有力な選択肢となった。すなわち、a)それを買う余裕があるほど裕福であること、b)時間計測に非常にこだわること、そしてc)自身の習慣に十分気を使い、時計をぶつけたり脱進機を狂わせたりしない人であることだ。

デテント脱進機のおかげで、ゴールド製のガンギ車が直接テンプに衝撃を与える。

上の画像にはテンプの下に隠れたガンギ車(磁気に強いゴールド製)が見える。この時計は巻かれていないため輪列には動力が溜まっていないが、もし動力があればガンギ車の歯のひとつが歯車のトルクによって、写真のほぼ中央にある小さな半円形のルビーに当たっているはずだ。

ご覧のように、ガンギ車の歯はテンプのかなり近い位置にあり、ガンギ車が時計回りに回転すると、テンプローラー(脱進機からの力を受け取る小さな円盤)に取り付けられたインパルスジュエルを反時計回りに押す。少し考えてみれば分かるように、レバー脱進機とは異なりデテント脱進機は一方向にしか衝撃を与えないため、この点がレバー脱進機に比べて若干の短所となる(ジョージ・ダニエルズのコーアクシャル脱進機はデテントのようにオイルを必要としないが、レバーの“安全性”を提供し、さらに両方向に衝撃を与えるように設計されている)。

さて、そのヒゲゼンマイについて話そう。

円筒形のヒゲゼンマイは、精密な計時装置(多くはマリンクロノメーター)にしか見られない。

ヒゲゼンマイはかなり凝った作りだ。パート1で取り上げた球形ヒゲゼンマイほど奇をてらったものではないが、それでも見事な仕上がりで、入念な工程の結果生み出されている。基本的には、平らに伸ばしたワイヤーを円筒形に巻き付け、熱処理で焼き戻し、ご覧のようなコーンフラワーブルーに加工したものである。この形ヒゲゼンマイの基本的な設計思想は、その他の円筒形ヒゲゼンマイやブレゲ/フィリップスの巻き上げヒゲと同じように、ゼンマイの“振動”を左右対称に保つところにあった。

平らなヒゲゼンマイは伸縮時にテンプのピボットが左右にぶれる傾向にあるため、ポジションごとの振動数が微妙に異なってくる。円筒ヒゲゼンマイの問題点は、従来型の巻き上げヒゲに比べて性能があまり高くないこと、そして(当然のことながら)ムーブメントに厚みが出てしまうことであった。そのため、20世紀ごろにはマリンクロノメーターへの搭載が主流となり、1960年代以降もその流れは続いた。

もうひとつ注目すべき点は、テンプのピボットと2番車のピボットのサイズの違いである。上の画像では、2番車のピボットは非常に大きく、主ゼンマイ香箱によって生じるかなりの横荷重に耐えられるよう、ルビージュエルのなかに収められている。そう、摩擦はできるだけ少ないほうがいいに決まっているが、歯車は1時間に1回転しかしないので、やり過ぎない範囲で可能な限り大きなピボットを使うことができる(そして使うべきだ)。一方、テンプのピボットは針のように細く、キャップジュエルの下にギリギリ見える程度しかない。

テンプのピボットは非常に小さく、キャップジュエルの下にその先端がかろうじて見える程度である。

ピボットの直径に対してテンプがかなり巨大であることを念頭に置けば、このような懐中時計を落とした場合、時計屋に駆け込むことになる理由が理解できるだろう。硬材のテーブルの上に1~2インチ(約2.5〜5cm)上から落としただけでも、ピボットが曲がったり壊れたりする可能性があるのだ(そしてこのことは、衝撃から時計を保護する仕組みがようやく登場したとき、なぜ現代のスポーツウォッチの開発においてこれほどまでに重要で、大きな意味を持ったのかを理解するのに役立つはずだ)。

時計製造の歴史において、とりわけさかのぼればさかのぼるほど誰が何を発明したかを明確にするのは難しいものになる。しかしジョン・アーノルドは1776年に円筒形ヒゲゼンマイの特許を取得している。その特許の成果のひとつを以下に紹介しよう。これは1781年製のポケットクロノメーターで、温度補正テンプを搭載した初期のものだ。

円筒形ヒゲゼンマイと初期型の温度補正テンプを備えたジョン・アーノルドによるポケットクロノメーター、1781年製。

円筒形のヒゲゼンマイは今日でも稀有な存在であり続けているが、その理由は当時とまったく変わっていない。製造が難しいうえにムーブメントに高さが出てしまい、ブレゲやフィリップスの巻き上げヒゲでは得られないような利点があるわけでもない。しかし、いくつかの企業は依然として実験的な試みを続けている。例えばモンブランにジャガー・ルクルト(こちらは球形ヒゲゼンマイも採用)、クリストフ・クラレ、そしてショパールがごく少数ではあるが、円筒形ヒゲゼンマイを採用した時計を発表している。

このムーブメントを見れば、すぐにこれが特別なものであることがわかるだろう。

今日のジラール・ペルゴとその歴史について考えるとき、ひとつは第2次世界大戦後の時代に堅実な中級腕時計を製造していた会社として、そして他方では超高精度のクロノメーターHF(最初のハイビート腕時計のひとつ)を製造していた会社として、そしてさらに少しさかのぼって、このような素晴らしいポケットクロノメーターを製造していた会社(トゥールビヨン ポケットクロノメーターも相応のシェアを誇っていた)としてのイメージが浮かぶ。ここ数十年、GPが消費者の心に明確で一貫したイメージを定着させるのに苦労していることは周知の事実だが、そのための素材とヒストリーはすべて揃っているのだ。

この特別な時計は、“機械仕掛けの素晴らしさ”という陳腐な決まり文句を見事に体現している。精密な計時というひとつの目的にひたむきに打ち込んでいる一方で、卓越した技術に対する情緒的なこだわりはムーブメントにおいて本来不必要だが本質的な美しさに大いに現れている。この美学を持ち続けるのは難しい。現在ではさまざまな理由から、それを見失ってしまっている企業のほうが多い。私が今のジラール・ペルゴに望むことは、誰が指揮を執るにせよ、このような時計を見て、ムーブメントの美学と機能性がいかに表裏一体であるかを理解し、それをインスピレーションとして前進することである。よくよく考えてみれば、それ自体はスイスの時計製造全般にとって悪いことではないだろう。

パテック フィリップ Ref.2499の行方を追った

ニューヨーカー誌が昨日、かつて盗難に遭い、長いあいだ行方不明になったのちに発見されたジョン・レノンのパテック フィリップ Ref.2499の現状に関する最新レポートを掲載した。この長期にわたって展開されてきたストーリーの概要に聞き覚えがあるとすれば、それは僕たちが過去にもこのトピックを詳しく取り上げてきたからにほかならない(例えばこちらとこちらなど)。この最新の記事では、僕たちの友人(そしてHODINKEEの元寄稿者)であるジェイ・フィールデン(Jay Fielden)氏が、この特別な時計の謎をさらに深く掘り下げ、いくつかの新しい詳細とアーカイブ画像を発見したと記されている。

有名な話だが、パテックフィリップ 時計 コピー 代金引換優良サイトのRef.2499はオノ・ヨーコ氏からレノンに贈られたものだ。そしてその出どころを抜きにしても、ミッドセンチュリーに製造され、生産数350本以下といわれるRef.2499は、コレクターにとって非常に魅力的な存在である。Ref.2499について、あるいはパテックのすべてのパーペチュアルカレンダー クロノグラフについてもっと知りたい方は、ベンのReference Pointsをお見逃しなく。

john lennon patek 2499
2013年にオークショナタ(Auctionata)が撮影したジョン・レノンのティファニーロゴ入りパテック Ref.2499の未公開画像。これまで確認されていなかったケースバックのエングレービングも確認できる。Image: Courtesy of The New Yorker/Auctionata

何年も根気よく調査を続けてきたジェイの記事では、レノンが所有していたこの時計の歴史、所有者をめぐるミステリー、2005年の盗難事件、そして長らく争われてきたこの時計の法的所有者を決めるスイスで進行中の訴訟について記されている。ジェイが“失われた時計のエル・ドラド(黄金郷)”と形容するこの時計について、インターネット上では、過去の報告書、不完全な裁判記録、そして古めかしい推理が網の目のように絡み合い、捜索が続けられている。事実、オノ氏はクリスティーズのオークションに出品されると知らされるまで、この時計がなくなっていることに気づかなかったほど、捉えどころのない時計なのだ。

2023年8月、スイス連邦裁判所の判決が時計界に波紋を投げかけ(このことについては僕たちも取り上げた)、レノンのRef.2499にまつわる長大で難解な物語が明るみに出た。そこからジェイ氏は、2013年にこの時計を引き取ったオークションハウス、オークショナタの時計担当者、そこからこの時計を入手したディーラー、さらにはジョンの息子であるショーン・レノン(Sean Lennon)氏に話を聞き、記事で取り上げた。

「この時計に関して私たちが乗り越えてきたことすべてを思うと、取り戻すということがとても重要なのです」とショーン・レノン氏はニューヨーカー誌に語った。「私にとってこの時計は、信頼することがいかに危険であるかを何よりも象徴しています」

何より興味深かったのは、2013年にオークショナタがレノンの時計を販売するために撮影した未発表の画像をジェイ氏が発掘してくれたことだろう。この写真には、6時位置のインダイヤルに“Tiffany & Co.”のサインが刻まれた、完璧なコンディションのパテック Ref.2499が写っている。さらにそこには、¥オノ氏が裏蓋に刻んだ秘密のエングレービングも写っていた。

(JUST LIKE)
STARTING OVER
LOVE YOKO
10 • 9 • 1980
N. Y. C.

レノンがわずか数カ月後に悲劇的な死を遂げたことを考えると、心を揺さぶられるほどの美しさを覚える。僕たちの誰もが長年にわたって引きつけられてきた物語であり、ストーリーが展開するにつれて詳細が明らかになっていくのを見るのは実に素晴らしいことだ。ここで何かを明かすつもりはない。この話にはまだまだ続きがあり、そして間違いなくじっくりと読み込む価値があるものである。

オリスは新作のダイバーズ65に、素晴らしいスペックシートを添えて発表した。

オリスは新作のダイバーズ65に、素晴らしいスペックシートを添えて発表した。オリスの自社製ムーブメントであるCal.400を、基幹コレクションでは初めてノンデイトの38mm径ダイバーズ65に搭載した形になる。2020年に発表されたオリスのCal.400は、5日間のパワーリザーブ(ツインバレルのメインスプリング、シリコン製ヒゲゼンマイ、その他数多くの技術革新による)を誇るヘルシュタインブランド独自のムーブメントだ。2021年にはオリスとHODINKEEはこのCal.400を38mm径のダイバーズ65に搭載し、第2弾となる限定モデルを販売した。

oris divers sixty five 38mm cal 400
オリス時計コピー 代金引換優良サイトそして今回、コアコレクションに38mm径のダイバーズ65が登場した。サンバースト仕上げを施したグリーンのグラデーション文字盤と、それにマッチするステンレススティール製逆回転防止ベゼル、そこに立体的に配置された数字が特徴的だ。アプライドインデックスと針には、スーパールミノバが施されている。これはヴィンテージ風のダイバーズウォッチをより現代的にアレンジしたもので、小径ケースへのニーズの高まりに応えるものだ。ケース厚は12.6mmで、小ぶりながらこのダイバーズ65の防水性能は10気圧となっている。

このオリス ダイバーズ65 キャリバー400は、本日より61万6000円(税込)で発売する。既存のダイバーズ65ですっかりおなじみとなった、リベットスタイルのSS製ブレスレットで提供される。

我々の考え
Cal.400を搭載したオリス ダイバーズ65は夢のようなスペックを有したモデルとなっている。5日間ものパワーリザーブを備えたマニュファクチュールムーブメントに加え、直径38mm(厚さ12.6mm)の小ぶりなケースを持ち、デイトもないのだ。ダイバーズ65はもともとレトロな雰囲気が漂うモデルだが、SS製ベゼルと鮮やかなグリーンの文字盤が、通常のブラック文字盤&ブラックベゼルのダイバーズウォッチとは一線を画すモダンな雰囲気を醸し出している。

oris divers sixty five 48mm
オリス ダイバーズ65のラインナップは、万人に受け入れられるものとなっている。ブロンズやスティール製のコットンキャンディから、現行のキャリバー400モデルのように本格的なダイバーズウォッチまで、このコレクションにはすべてが揃っているのだ。Cal.400を搭載した今回の38mm径モデルは、時計愛好家を意識した数々のアイデアを盛り込みながらも見事な仕上がりを見せている。

これはオリス版チューダー ブラックベイであり、彼らはあらゆる人々の要望に応えることを恐れていない。スイスの独立系ブランドが持つその姿勢に私は敬意を表する。私はダイバーズウォッチのSSベゼルに常々疑問を感じてきたが、これは主観的な嗜好であり、多くの人にとって大した問題にはならないだろう。

oris divers 65 38mm
オリスによるダイバーズ65 キャリバー400は3800ドル(日本円で約60万円)だったので、希望小売価格に100ドルばかり上乗せされただけで比較的リーズナブルに収まっている。

基本情報
ブランド: オリス(Oris)
モデル名: ダイバーズ65(Divers Sixty-Five)
型番: 01 400 7774 4057-07 8 19 18

直径: 38mm
厚さ: 12.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: グリーン
インデックス: アプライド
夜光: インデックスと針にスーパールミノバ
防水性能: 10気圧防水(ねじ込み式リューズ)
ストラップ/ブレスレット: SS製ブレスレット

ムーブメント情報
キャリバー: オリス キャリバー400
機能: 時刻表示のみ(時・分表示、センターセコンド)、秒針停止機能付き
直径: 30mm
パワーリザーブ: 120時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 31
追加情報: COSC認定は受けていないが、オリスでは日差-3/+5秒の精度を保証している

価格 & 発売時期
価格: 61万6000円(税込)
発売時期: 発売中

常に話題となってきた時計部品のひとつを俯瞰してみる。

冒頭で認めざるを得ないのは、ベゼルが時計パーツのなかで最も話題に上る要素であるかどうかについて、確信を持って断言することはできないという点である。しかしながら、それに匹敵する存在であることは間違いない。ケースはあまりに一般的であり、議論の対象とするには抽象的すぎる。一方リューズは主張が控えめであり、語るべき事柄として取り上げられる機会は少ない(現代の自動巻き時計であれば、ゼンマイが巻き上げられ、時計が停止することがない限りリューズを操作する必要はほとんどない)。日付窓に関する議論は、おおむね二分される傾向にある。すなわち、肯定的に受け止める者(あるいは少なくとも否定しない者)と、否定的な立場を取る者(少なくとも、存在しないほうが望ましいと考える者)である。

ベゼルに関しては、基本的な機能の観点から見れば、いくつかの主要なカテゴリーに分類されるものの、デザインの多様性はほぼ無限に広がり、人気のスーパーコピー時計 代引き専門店多くの場合時計のアイデンティティを決定づける要素となる。この点については、チューダー ブラックベイ プロを題材に、ダニー・ミルトンと筆者がPoint/Counterpoint記事で展開した議論を参照されたい。

black bay pro
チューダー ブラックベイ プロ

例として、ダイバーズウォッチのベゼルを考察する。これはピップ(発光マーカー)を分針に合わせることで経過時間を測定し、針の進行とともに経過した時間を正確に読み取るためのものである。当然ながら、いくつかの制約が存在する。その一部はダイバーズウォッチの国際規格であるISO 6425により厳格に定められており、これに対する異議の余地はない。だがそのような制約があるにもかかわらず、デザイン、素材、書体、蓄光素材などにおいて、ほぼ無限ともいえる組み合わせの可能性が広がっている。

 本稿では、包括的な解説とはならないものの、広く流通している代表的なベゼルの種類について検討する。

経過時間ベゼル(カウントアップ式)
 古典的な時計のベゼルとして挙げるべきものがあるとすれば、それはおそらくダイバーズウォッチの経過時間ベゼル(カウントアップベゼル)であろう。この名称の由来は明確である。ピップを分針の先端に合わせ、その時点から経過した時間をベゼルを用いて測定する仕組みである。ダイビングにおいて、時間管理は極めて重要である。したがって、実際にダイバーズウォッチとして認められるためには、タイミングベゼルが特定の要件を満たす必要がある。特に12時位置のピップには蓄光素材が用いられなければならず(その理由は明白である)、さらに、ベゼルは逆回転防止機構を備えた一方向回転式であることが求められる。この回転方向の制約は、安全性を確保するための設計である。万が一、ベゼルの位置が意図せずずれた場合でも、潜水可能な時間が実際よりも短く表示されることになるため、最悪の事態としては浮上を早めることになるに過ぎない。

Seiko diver
 私の知る限り、回転ベゼルを最初に搭載した時計は、1930年代に製造されたきわめて希少なロレックス ゼログラフである。ただし、現代的なダイバーズウォッチにおいて回転ベゼルを備えた最初のモデルは、ロレックス サブマリーナーおよびブランパン フィフティ ファゾムスである。

経過時間ベゼル(カウントダウン式)
 カウントアップ式ベゼルは経過時間を示すが、カウントダウンベゼルはその逆であり、特定の時間枠における残り時間を表示する機能を持つ。カウントダウンベゼルの仕組みはカウントアップベゼルとは異なる構造を採る。カウントダウンベゼルでは、文字盤に1から60までの目盛りが配され、60分を示す位置にピップが配置されている。
例えば、30分のカウントダウンを行う場合、30の数字を分針に対して正対する位置にセットする。分針がピップに到達した時点で、30分が経過したことを意味する。

Blancpain Air Command
 カウントダウンベゼルの代表的なモデルとして、現在もっとも注目されているのがチューダー ペラゴス FXDである。このモデルは、水中で設定された航路を泳ぐ際の時間を計測するために設計されている。これは一種の推測航法(デッド・レコニング)に基づくものであり、特定の地点に到達するために、コンパスを用いて方位を維持しながら、一定の速度で泳ぎ続け、決められた時間内に目的地へ到達することを前提としている。なおカウントダウンベゼルを搭載した時計はFXDに限られず、ミドーやブランパンをはじめとして、意外なほど多くのモデルが存在する。

パイロットウォッチの回転計算尺ベゼル
 パイロットウォッチの回転計算尺ベゼルは、多くの人にとって魅力的な機能である一方で、その正確な使い方を理解している者は少ない。私自身、掛け算以外の計算方法を習得しようと何度も試みたが、完全に身につけるには至っていない。回転計算尺ベゼルを用いることで、実に多様な計算が可能であることは理解しているものの、それらをすべて記憶しているわけではない。

Breitling Navitimer
 回転計算尺ベゼルは、円形の計算尺の一種である。電卓が登場する以前、計算尺はさまざまな産業用途や科学計算に広く用いられていた(かつて、技術者や科学者がポケットプロテクターと計算尺を携帯していたのは定番の光景であった)。たとえばブライトリング ナビタイマーを用いて9×12の計算を行う場合、アウターベゼルを回転させ、12の数字がインナーベゼルの10(視認性を高めるため赤く着色されている)と正対する位置に合わせる。そのあとインナーベゼル上で9を見つけ、その反対側にあるアウターベゼルの数値を読み取る。視力が優れている者、あるいは老眼鏡を新調したばかりの者であれば、9と正対する数値が108であることを確認できるはずである。今であれば携帯電話の電卓を使用すれば瞬時に計算が完了する。しかし回転計算尺を用いることで、デジタル時代以前の航空界の英雄たちが持っていた計算技術の一端に触れることができるのではないだろうか。

コンパスベゼル
 12時間表示の文字盤と時針を備えた時計があれば、北の方角を判別することが可能である。そして、北の方角が特定できれば、南・東・西の位置も自ずと明らかになる。

Breitling Exospace
 北半球における基本的な手順は以下の通りである。まず、時計を水平に保持し、時針を太陽の方向に向ける(この方法は、北半球において太陽が南の空を移動するという事実に基づいている)。午前の場合、時針から時計回りに進み、時針と12時インデックスとの正確な中間点を求める。次に、文字盤の中心からその点に向かって直線を引く。これが北を指す基準線となる。コンパスベゼルはこの原理に基づいて機能するが、文字盤のマーカーを利用することで、進行方向に応じた方位の把握がより正確に行える。

タキメーターベゼル
 タキメーターベゼルは、特定の距離における速度を測定するための機能であり、時速マイル(mph)または時速キロメートル(km/h)のいずれかに換算できる。基本的な使用手順は単純である。まずクルマを始動させ、最初の1マイル標識に向かう。測定区間において速度が一定であれば、その速度を直接計測できるが、不均一であっても区間全体の平均速度を算出することは可能である。計測を開始するには、最初の標識を通過したタイミングでクロノグラフを作動させ、次の標識を通過した時点で計測を停止する。その際、クロノグラフの指針が120を指していれば、1マイルを30秒で走行したことを意味し、速度は時速120マイル(約193km)となる。

Speedmaster caliber 3861
 なお、タキメーターベゼルは時速以外の単位の測定にも応用可能である。たとえば、生産ラインにおいて1時間あたりの生産数を算出する場合を考える。最初の製品が通過した時点でクロノグラフを作動させ、次の製品が通過したタイミングで計測を停止する。その際、クロノグラフの秒針が120を指していれば、1時間あたりの生産数は120個となる(対象が自動車であれば120台となる)。

24時間ベゼル(固定式・回転式)
 ベゼルの“名作”と呼べるモデルのなかで、人気という観点から見れば、ダイバーズベゼルが最も支持を集めるかもしれない。だがタキメーターベゼルにはスピードとロマンが詰まっており、回転計算尺ベゼルには計算機能という独自の魅力がある。しかし日常的な実用性において、ふたつのタイムゾーンを表示する時計の24時間ベゼルに匹敵するものはない。実際のところ、特定の区間における平均速度を知ることなくとも、問題なく生活を送ることはできる。ダイバーズウォッチのベゼルは多用途に活用できるものの、実際のダイビングに使用される機会は少ない。回転計算尺ベゼルは、カフェで『Infinite Jest(インフィニット・ジェスト)』を携えるのと同様の存在ともいえる。すなわち、機能性以上に所有者の知的な側面を演出する要素が強い。

Grand Seiko Spring Drive GMT
 しかし、24時間ベゼルはきわめて実用的な機能を備えている。ひと目でふたつのタイムゾーンの時刻を確認でき(回転ベゼルであれば、理論上は3つのタイムゾーンにも対応可能)、時刻の把握を容易にする。さらにある程度の工夫をすれば、経過時間ベゼルとして使用することも可能である。一般的に、数字はインデックスと交互に配置され、5分間隔で並ぶ形式が採用されている。もっとも、計算に頭を使う必要があるならば、そもそもふたつのタイムゾーンを表示する時計を選ぶことはないだろう。実際のところ、最も低コストなGMT機能の代替手段としては、シャープペンシルでシャツの袖口にホームタイムとローカルタイムの時差を書き留めることにほかならない。

特集記事
Reference Points: ロレックス サブマリーナー 歴代モデルを徹底解説

 ダイバーズウォッチのベゼルに関していえば、HODINKEEが2008年の創刊以来取り上げてきたすべてのダイバーズウォッチが特集記事としての価値を持つといえるだろう。そのなかでも、特に興味深く実用的な内容を含むのが、スティーブン・プルビレントによるReference Points ロレックス サブマリーナー 歴代モデルを徹底解説記事である。本記事は、クラシックな時計の誕生と進化を詳述しているだけでなく、1953年から1979年にかけてのタイミングベゼルの変遷を考察している点においても注目に値する。たとえば、1957年にはベゼルの最初の15分間に1分刻みのマーカーが追加されるなど、機能面での改良が加えられた。このような変化を通じて、ダイバーズウォッチの進化の過程を追うことができる。

In-Depth: チューダー ペラゴス FXDと西カリブ海のダイビングを楽しむ

 チューダー ペラゴス FXDは、その登場時に物議を醸した。その理由の一端は少なくともベゼルの仕様に関して、厳密にはダイバーズウォッチとはいえなかった点にある。ダイバーズウォッチの国際標準では、経過時間の測定を目的とした逆回転防止ベゼルの搭載が求められており、これはすなわち古典的なカウントアップ式の一方向ベゼルを意味する。一方FXDはこれとは異なり、中間地点間の経過時間を測定するためのカウントダウン式ベゼルを採用している。理に適った判断として、実際にダイビングでの使用を試みることが求められた。そしてFXDを装着し、カリブ海のボネール島で1週間にわたりダイビングを行ったジェイソン・ヒートンは、当初の懐疑的な見解を改めるに至った。

In-Depth: リシャール・ミル RM25-01を着けて臨むコロラドのバックカントリー

 人跡未踏の荒野をトレッキングする際に、1億円を超える超高級トゥールビヨンを携行することは現実的なのか。その問いに対し、ジェイソン・ヒートンは逆の視点から問いかけた。なぜ携行しないという選択肢があるのかと。本記事で取り上げたRM25-01は、厳しい自然環境下での過酷な使用を前提に設計されたモデルである。ヒートンが指摘するように、“腕時計としては間違いなく世界初といえる機能は別にある。それこそが右側面の小さなバイアルに入った3つの浄水タブレット。これはどんな汚い水でも30分で飲み水に変えてしまう”。当然ながらコンパスベゼルも搭載されており、これまでに見たなかでも最も高度な設計が施されたもののひとつである。

Reference Points: オメガ スピードマスター 歴代モデルを徹底解説

ダイバーズベゼルがロレックス サブマリーナーやブランパン フィフティ ファゾムスを象徴するように、極上ロレックススーパーコピー代金引換専門店そら~タキメーターベゼルの代名詞ともいえる時計が、オメガ スピードマスター プロフェッショナルである。とある表現を借りるならば、“非・宇宙飛行士にとっての定番の時計”だ(もっとも、多くの実際の宇宙飛行士やコスモノートたちにとっても、お気に入りの1本である)。2015年当時、HODINKEEの読者でなかった方や、何らかの理由でこの記事を見逃した方のために述べておくと、本記事はサブマリーナーのReference Pointsと同様、細部にわたる徹底した考察を特徴とする、Reference Pointsシリーズの典型的な一例である。本稿では、HODINKEE創設メンバーであるベン・クライマーと、著名なコレクターであるエリック・ウィンド(Eric Wind)氏が登場し、スピードマスターの歴史とその特徴を詳述している。

Hands-On: ロレックス GMTマスター II Ref. 126720VTNRを実機レビュー

物議を醸した時計といえば、ロレックスはジュネーブで開催された2022年のWatches & Wondersにおいて、新作GMTマスター IIを発表し、時計界に大きな衝撃を与えた。24時間ベゼルは従来どおり搭載され、その機能も変わらない。そして言うまでもなくこのベゼルは1954年のGMTマスター初登場以来、一貫してこのモデルを象徴する要素であり続けている。しかし長年ロレックスを見続けてきた愛好家たちにとって驚くべきだったのは、そのベゼルが備わった時計のリューズが通常の右側ではなく左側に配置されていたことである。一部のコメントから判断するに、これは神、そしておそらくハンス・ウィルスドルフ(Hans Wilsdorf)の意図とは異なる配置であると受け止められたようだ。2022年もすでに半ばを迎えつつあるが(ちなみに、2022年の正確な中間点は7月2日ごろである)、このGMTマスター IIは依然として2022年の最も予想外の新作のひとつであり続けている。

ジャック=イヴ・クストーが愛したクロノグラフを引っさげ、

スペリオル湖はフランス人探検家によって名づけられた湖だが、その名前の由来はこの湖が地球上で最大の淡水湖であることや、絵画のように美しくも険しいその海岸線のためではない。五大湖のなかで最も北に位置することが由来である。北緯46°から49°のあいだに広がるこの湖は、1年をとおしてほとんど温かくなることがない。夏の終わりには表面温度が少し高くなり、岩だらけのビーチで子供たちがはしゃぐこともあるが、少しでも深く潜ると水温はほぼ氷点近くまで下がる。2020年の8月下旬、深さ76フィート(約23m)の地点での水温はわずか摂氏9℃(華氏43℃)だった。その冷たさで、私の手は感覚を失いそうになっていた。

マデイラ号のひっくり返った甲板上にある巨大なウインチを探索する。この115年前の難破船には、いまだにロープがしっかりと巻かれている。

私は1905年11月に、スペリオル湖北岸の崖で難破した全長436フィート(約133m)の鋼鉄製スクーナー船、マデイラ号を探索していた。ダイビングを始めて以来、マデイラ号の探索は私にとって毎年恒例の冒険となっている。五大湖は沈没船の数とその保存状態の素晴らしさから、世界でも屈指のダイビングスポットだ。スーパーコピーブランド Nランク代金引換マデイラ号の沈没地点は自宅から高速道路を3時間ほど走った先にあり、週末に気軽に訪れることができる。何よりこの沈没船には、岸から泳いでたどり着けるのが魅力だ。1955年、ミネソタ州ダルースを拠点とする本格的なダイビングクラブ“フリジッド・フロッグズ(Frigid Frogs)”が初めてこの船を探索した。彼らがこの名を冠しているのは、どんな季節でもゴム製のウェットスーツに薄いグローブ、シングルタンクを背負い、ダイブコンピュータなしで潜っていたからにほかならない。当時は低体温症やレギュレーターの凍結、潜水病のリスクが非常に現実的な問題だった。私は快適なドライスーツに身を包み、マデイラ号の崩れた船尾の周りを泳ぐたびに、ダイビング黎明期のダイバーたちに思いを馳せる。

ダイビングはテクノロジーのスポーツであると同時に、伝統のスポーツでもある。アイガー北壁を開拓した登山家の名前を冠したルートを進むように、歴史的な沈没船へ潜ることは楕円形のマスク、ツインホースの呼吸装置、そしてダイバーズウォッチを身につけてここに潜った先人たちと私を結びつけるのだ。私は水深、潜水時間、上昇率、減圧停止時間を記録するデジタルダイブコンピュータを装着しているが、今なおアナログのダイバーズウォッチを使うも好きだ。ダイバーズウォッチは、私が使う装備のなかで最もノスタルジックな存在だ。そして今年(執筆当時)のマデイラ号へのダイビングでは、懐かしさを漂わせる現代的な時計を着用した。アクアスターのディープスターである。

アクアスターのディープスターは、前身となるヴィンテージの魅力をそのままに、わずかにサイズアップしている。

アクアスター自体は多くの人にとってあまりなじみのない名前かもしれないが、おそらく1960年代で最も革新的なダイバーズウォッチブランドであり、ベゼルから水深計に至るまで12以上の特許を取得している。その起源は、当時スイスで最も古い時計ブランドのひとつであった由緒あるメゾン、ジャン・リシャールにある。同ブランド初のダイバーズウォッチこそが、1958年に発売されたアクアスター モデル 60であった。このモデルはやがて1960年代を代表する、のちに“スキンダイバー”と呼ばれるようになったケースを持つ時刻表示のみの控えめなダイバーズウォッチだった。長いアーチ状のラグのあいだにはケースがフラットに続いており、リューズガードはなく、横から見ると薄くカーブした形状になっている。セイコーが2020年に発表した62MASがこのスタイルを採用していることからもわかるように、このケーススタイルはその後数え切れないほどのブランドで採用され、その人気は今日まで続いている。シンプルで装着感がよく、フォルムに60年代の雰囲気を色濃く残している。

モデル 60は1960年にジャック・ピカール(Jacques Piccard)とともにマリアナ海溝の海底に史上初めて潜ったとき、バチスカーフ潜水艇トリエステ号のなかでアメリカ海軍大佐ドン・ウォルシュ(Don Walsh)が着用していた。そう、潜水艇の外側にロレックスのディープシースペシャルが取り付けられていた話の方が確かに有名だが、トリエステ号のなかにいたウォルシュはアクアスターの時計を着用していたのである。

アクアスターの古い広告。社長は時計業界の伝説的人物であるフレデリック・ロバート。

1962年、モデル 60で成功を収めたジャン・リシャールはサブブランドとして正式にアクアスターを立ち上げ、当時同ブランドのオーナーであったジャン・ロバート(Jean Robert)の息子であるフレデリック・ロバート(Frédéric Robert)が統括することになった。フレデリックは熱心なスキューバダイバーであり、セーラーでもあった。現代なら“ウォーターマン”とでも呼ばれていただろう。彼は海面上、海中、海面下それぞれでの使用に特化してデザインされた時計や計器の開発に情熱を注いだ。数年のうちにジャン・リシャールの名前は完全になくなり、アクアスターは独立したブランドとなった。以降はダイバーズウォッチだけではなく、リストコンパス、温度計、水深計、レガッタの名で知られる革新的なセーリングタイマーなども製造するようになった。アクアスター 63は風防のクリスタルの下に斬新な回転式インナーベゼルを備え、時計の巻き上げや時刻修正と同じくリューズで操作できるようになっていた。この機能はアクアスターが特許を取得している。このダイバーズウォッチはその名を広める決定打となり、アメリカ海軍のSEALAB計画参加者を含む海軍のダイバーや探検家、コンシェルフ実験を行ったジャック=イヴ・クストー(Jacques-Yves Cousteau)の潜水技術者団のメンバー、そして難破したオランダのフリゲート艦バタヴィア号を発見したオーストラリア主導の調査隊のダイバーたちにも使用された。このバタヴィア号の歴史は非常に興味深い。しかしアクアスターにおいて最も象徴的な時計であるが、今日コレクターに求められているモデルは別にある。そう、ディープスターだ。

珍しいタキメーターベゼルを備えた、1970年代のデュワードとダブルネームのディープスター。

ディープスターは、30分積算計をひとつ備えた手巻きクロノグラフとして1965年に発表された。 ひときわ目立つホワイトのサブダイヤル、エレガントなスキンダイバーケース、そして角ばったアプライドマーカーによって古い写真でもすぐにそれとわかる。しかしディープスターで特に画期的だったのは文字盤ではなかった。そう、ベゼルである。ベルギー人ダイバーであり科学者でもあるマーク・ジャシンスキー(Marc Jasinski)がデザインしたこのデュアルスケールはステンレススティール(SS)製のリングに刻まれており、潜水経過時間を記録するだけでなく、ダイバーがダイブのあいだに必要とする水面休息時間や次のダイブの減圧時間を推定することもできた。後者の機能は、フランス海軍が開発した減圧スケジュールに基づいてアクアスターが作成したダイブテーブルと連携していた。複数のダイブに対応する機能は時計ではまったく新しいものであり、驚くべきことにこの機能は数十年後にダイブコンピュータが登場するまで再登場することはなかったのだ。

妻と一緒に写っているフィリップ・クストー(Philippe Cousteau)は、長年ディープスターを愛用していた。

ディープスターは1960年代を通じてクストーと彼のチームが数多くの探検で着用し、70年代半ばまで彼らの手首に装着されている様子が写真で確認できる。フランスのフリーダイバー、ジャック・マイヨール(Jacques Mayol)が長年ディープスターを愛用していたのは減圧ベゼルのためではなく、深い無呼吸潜水で息を止めている時間を計るために使っていたクロノグラフを必要としていたためだった。1968年、マイヨールがひと息で75mの深度記録を樹立したときに身につけていたのがこの腕時計だ。

フレデリック・ロバートは1970年代初頭にアクアスターからオメガに引き抜かれ、よく知られているいくつかのシーマスターやとりわけ有名なフライトマスターを含む、70年代の多くのアバンギャルドなツールウォッチをいくつも生み出した。 アクアスターはそのニッチな時計シリーズを開拓し続け、レガッタと2番目に有名なダイバーズウォッチであるベントスをさらに進化させた。しかしクォーツショックが広がるにつれてアクアスターの名声は聞かれなくなり、現代において忘れ去られてしまったクォーツ製品をいくつか製造したのち、最終的に電子レガッタタイマーのニッチなメーカーとなった。そして2018年、2000年代初頭にドクサのダイバーズウォッチ、“サブ”シリーズを復活させたリック・マレイ(Rick Marei)がアクアスターのオーナーたちに新世代のためにアクアスターの象徴的なダイバーズウォッチを再現することを持ちかけた。この生まれ変わったブランドの最初の時計こそが、ディープスターである。

ヴィンテージの風格を持つディープスターからは、1960年代のダイビングの魅力がにじみ出ている。

ダイバーズクロノグラフには何とも言えない魅力がある。 ケースに余分な穴が開いていたり、時刻表示のみの時計に比べて文字盤が見づらかったりと、ダイビングには最も実用的なツールとは言えないが計器としての力強さと威厳を宿っているのだ。インダイヤルの積算系や、目立つプッシュボタン、回転ベゼル、そして(ドライスーツの上から巻くための)長いラバーストラップが組み合わさることで独特の存在感を放つ。このディープスターは1960年代らしいフォルム、筆記体のロゴ、SS製ベゼル、アール・デコ調のマーカーを備え、ダイバーズクロノの力強さをヴィンテージのホイヤーやスピードマスターのようなエレガントさで和らげている。そしてなんと、レザーストラップとの相性も抜群なのだ。

アクアスターの“ヒトデ”ロゴがリューズを飾る。

1960年代のディープスターは直径37mmで、現代のダイバーズウォッチと比べると小振りだった。2020年の復刻版では40.5mmにサイズアップしつつも、適度なコンパクトさを維持している。ラグ・トゥ・ラグは51mm、自動巻きムーブメントを搭載し、防水性能は200mに向上。ドーム型サファイアクリスタルを除いた厚さは15mm弱だ。この新しいディープスターを腕に装着すると決して軽やかな印象ではなく、しっかりとした重厚感のある時計だと感じる。頭でっかちに見えずバランスよくデザインできているのは、計算されたサイズアップとスキンダイバーケースの持つ独自の構造によるものだ。それらに合わせてラグ幅もヴィンテージの20mmから22mmへと拡大されており、ケース全体のプロポーションと絶妙に調和している。

復刻版ディープスターは40.5mm径にサイズアップされた。

自動巻きムーブメントに関していうと、アクアスターはスイスのマニュファクチュールであるラ・ジュー・ペレにコラムホイール式バイコンパックスクロノグラフムーブメントを依頼した。55時間のパワーリザーブを誇り、両方向巻き上げでありがたいことにリューズ操作時に“ゴーストデイトポジション”がない。このような象徴的な復刻モデルにふさわしいムーブメントであり、クロノグラフ使用時のプッシュボタン動作は予想どおりスムーズで反応もいい。精度も素晴らしい。私が毎日着用していた個体は、2カ月以上装着するなかで時刻調整が必要となったのは一度だけだった。ムーブメントには控えめな装飾が施され、アクアスターの有名なスターロゴが入ったスケルトンローターで仕上げられている。しかしそれは表だったものではない。それはヴィンテージモデルと同じアクアスターの文字のロゴと歯車状のツールグリップをあしらった堅固な裏蓋の後ろに(私としては、まっとうなダイバーズはそうあるべきものと考えている)スマートに隠されているのだ。

1960年代に作られた、最もよく知られている裏蓋の一種。

このムーブメントに加え、美しいクロノグラフの精緻な再現、限定版(各色300本)ということで、かなり高価な時計になると思うだろう。しかしこのディープスターの予約価格(当時)は2790ドル(日本円で約43万円。予約期間終了後は3590ドルで日本円で約56万円、現在は税込62万7000円)で、これはロンジンの手ごろな価格帯のヘリテージ クロノと同程度であり、チューダーのブラックベイ クロノの4900ドル(日本円で約75万6000円、現在は税込で80万円程度)を大きく下回る価格だ。ドクサのサブ 200T.グラフの復刻版では、はるかに洗練に欠けるムーブメント(バルジュー7734)を搭載し、ラバーストラップで4860ドル(日本円で約75万円)と非常に高額で販売されている。ディープスターは1965年の価格設定を継続しているわけではないが、パンデミック真っ只中の2020年を意識した価格設定であることは間違いない。

ベゼルについて話そう。なぜってベゼルがなければ、この時計はただのクールなモータースポーツ用や宇宙飛行士用の時計になってしまうからだ。 アクアスターは単純な経過時間計測用やタキメータースケールを備えた“ラリー”バージョンなど、いくつかの異なるベゼルを提供していたが、ディープスターが最もよく知られているのは、この反復潜水用のベゼルだ。おそらく、もうひとつの有名なダイバーズベゼルと比較するのが最もわかりやすいだろう。ドクサのサブ 300は、そのオレンジの文字盤を除けばデュアルスケールの“ノーデコ”ベゼルが特に有名だ。このベゼルに刻まれたマークによって、ダイバーは水面まで減圧することなく、所定の深度にどれだけの時間とどまることができるかを判断することができる。確かに便利だが、これはその日の最初のダイブにしか使えない。1、2時間後に再び海に入りたい場合はどうすればいいのか? 残念ながら、ドクサのベゼルでは対応できない。なぜなら、体の組織や血流には1回目のダイブで蓄積された窒素がまだ残留しており、これを考慮しないまま2回目のダイブを行うと、関節や臓器、脊柱で窒素が気泡となって発生し、病気や麻痺、あるいは死に至る危険性が高まる。これが恐ろしい潜水病(減圧症)だ。

水中に長居は無用、深入りも無用。ディープスターのベゼルは、登場した当時は画期的だった。

ディープスターのベゼルはこの残留窒素を考慮し、水面休息時間(次のダイブまでのインターバル)に応じて、2回目のダイブのための新たな潜水時間を計算するのに役立つ。 これは時計の時針を使って行う。水面に浮上したら、時針の反対側にベゼルをセットし、ダイブテーブルの正しい数字(1.5、1.4、1.3など)に合わせる。時間が経過して時針が動くと、ベゼルは体内の窒素の“係数”の減少を示し、これをアクアスターのダイブテーブルと組み合わせて2回目のダイブのために新たな減圧時間を決定することができる。だが注意して欲しいが、同ブランドの新しいディープスターにこのダイブテーブルは付属していない。 オリジナルのチャートのベースとなったフランス海軍の減圧表はすでに時代遅れであり、2020年に発売される時計にそれを提供するのは無責任であるだけでなく、法的にもリスクがある。しかしネット上でこのダイブテーブルの写真を見つけるのは簡単なので、私は徹底した時計ジャーナリズムの精神でそれを使ってみることにした。安心して欲しい。私はダイブコンピュータも装着していた。

私のマデイラ号への最初のダイブでは、水深27mまで潜った。 ディープスターのラチェット式両方向回転ベゼル(一方向ベゼルがいかに過大評価されているかについて語り始めたら止まらなくなるので、ここでは控える)にある内側の目盛りを使って潜水時間を計ったところ、32分だった。さて、先述のアクアスターのダイブテーブルによれば私は水深3m(1960年代当時の一般的な減圧水深)で約4分間の減圧停止をするべきだった。私のガーミンのダイブコンピュータは、私が潜っていた時間ずっと最大深度にいたわけではなかったことを考慮し、より浅い地点にいた時間に対して“補正”を行ってくれたため、ブライトリングスーパーコピー 優良サイト厳密には減圧の必要はなかった。しかし、水深5mで3分間の“安全停止”を行うのが一般的だ。そのため、結果的に私はアクアスターとガーミン ディセントの指示にほぼ沿った形となった。

9℃の水中において、ディープスターは私の凍った指よりもよく働いてくれた。

浮上時、私はベゼルをリセットして、外側の目盛りの“1.5”マークが時針と一直線になるようにした。このセッティングはダイブの深さと時間に基づき、再びダイブテーブルから導き出されたものだ。約2時間後にようやく指の感覚が戻ってきたころ、ディープスターの時針はベゼル目盛りの“1.3”の位置に移動していた。もし私が前回と同じ水深27mで32分間のダイブを繰り返すとしたら、通常の減圧停止時間を3倍にする必要があり、12分間の減圧が必要になる。水温9℃の環境で44分間のダイブをするには、使い古したグローブでは心もとない。それに日が暮れ始めていたし、おいしい昼食と温かい岩の上でのひとときが、もう半マイル(約800m)泳ぐ気持ちを削いでいた。32分のダイブのために往復6時間の運転は効率が悪いようにも思えるが、ここは無理せず引き上げるのが賢明だろう。私は荷物をまとめ、帰宅するために南へ向かった。これで今回のマデイラ号へのダイビングは完了だ。

私は7月中旬からこのディープスターを着用しているが、実はマデイラ号へ潜る前にスペリオル湖の別の沈没船でこの時計を試していた(パンデミックの影響で、ダイビング旅行の目的地もころころと変わる)。このクロノグラフの初ダイブは、スペリオル湖の別のエリア、ミシガン州アッパー半島のグランドアイランド沖で行った。そこに沈む沈没船は、マデイラ号とは対照的なものだった。マデイラ号が鋼鉄製の巨大船だったのに対し、バミューダ号はそれ以前の時代に建造された木造帆船で、高品位の鉄鉱石を大量に積んでいた。またバミューダ号はマデイラ号よりもはるかに浅い水深10mの地点に沈んでおり、水温が高く、光がよく届き、長時間の潜水が可能だった。ディープスターの減圧スケールはこのダイブでは必要なかった。実際アクアスターのダイブテーブルには21mより浅い水深のデータは掲載されておらず、シュノーケリング程度の深さに分類される。それでも、この時計は十分なボトムタイマーとして機能し、オレンジ色の鉄鉱石の塊がいまだに散乱する崩れかけた船倉を探索する際に美しく映えた。

ページ移動

過去ログ